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2024年2月20日
1.はじめに
フィリピンという国は、美しい自然や独特な文化が魅力の一方で、深刻な貧困問題を抱えています。特にスラム街の存在はその象徴的な一面でしょう。この記事では、フィリピンのスラム街の現状にスポットを当て、その生活環境や抱える社会問題について詳しく説明します。
さらに、フィリピン在住の日本人から見たスラム街の生活実態、またスラム街でのボランティア活動やNGOの役割についても触れます。フィリピンのスラム街を知ることで、世界の貧困問題や経済格差の現状について深く考えるきっかけになれば幸いです。
2.フィリピンのスラム街の位置と種類
(1)マニラ市・トンド地区
マニラ市のトンド地区は、フィリピン最大のスラム街として知られています。ここには約60万人が生活し、その多くが極貧状態にあります。
トンド地区は、人口密度が極めて高く、1平方キロメートルあたりおよそ70,000人が生活しているとされています。ごみの山や不衛生な環境の中で、多くの家族が一日も早くこの状況から脱出したいと願っています。
しかし、その実現は困難で、教育や就労機会の不足、住環境の悪化などが重なり、生活改善への道筋は見えにくい状況です。
このような生活環境が子供たちの未来にどのような影響を与えているのか、深く考える必要があります。また、この問題を解決するためには、政府だけでなく、私たち一人ひとりの関心と助けが必要となります。
以下に、トンド地区の生活環境や社会問題の一部を表形式でまとめました。
問題点 | 具体的な状況 |
貧困 | 60万人の住民の多くが極貧状態 |
人口密度 | 1平方キロメートルあたり約70,000人 |
生活環境 | 不衛生な状況、ごみの山など |
教育・就労機会 | ほとんど提供されていない |
(2)ケソン市・パヤタスダンプサイト
ケソン市はフィリピン最大の都市で、その一角に広がるパヤタスダンプサイトは、まさにスラム街の象徴とも言える場所です。住民の多くがゴミ拾いを生業とし、一日中ゴミ山を漁ってはリサイクル可能な物を探し、それを売って生計を立てています。
地域名 | 主な生業 | 生活環境 |
パヤタスダンプサイト | ゴミ拾い | 劣悪な衛生状態 |
ケソン市のパヤタスダンプサイトでは、衛生状態が劣悪であり、悪臭と病気が常に漂っています。しかし、現地の人々にとっては、その厳しい環境を乗り越えなければ生きていくことができません。これがケソン市パヤタスダンプサイトの現実です。
(3)セブ島・ロレガ地区
セブ島の中心部に位置するロレガ地区は、セブ市最大のスラム地区として知られています。ロレガ地区の住民数は約20万人と推定されており、密集した環境の中で生活しています。
【表1. ロレガ地区の概要】
地域名 | 人口 | 面積 |
ロレガ地区 | 約20万人 | 11.5 km² |
地域の経済は街頭販売やリサイクル業が中心で、低賃金労働者が多いことが特徴です。また、教育環境も整っておらず、学校に通えない子供たちが多く見られます。
このように厳しい生活環境ではありますが、地域の人々は互いに助け合いながら生活しており、コミュニティーの絆は強いと言えます。一方で、その密集した生活環境と貧困が、衛生問題や犯罪率上昇の原因ともなっています。
(4)スモーキーマウンテンとスモーキーバレー
マニラ市に位置するスラム街「スモーキーマウンテン」は、その名が示す通り、ごみで形成された山が特徴です。また、併せてご紹介する「スモーキーバレー」は、マニラ市郊外の川沿いに広がるスラムエリアとなっております。
【スモーキーマウンテンの特徴】
人口:約25000人
職業:リサイクル業
生活環境:ごみ山の上に建てられた独自の家屋に住む
【スモーキーバレーの特徴】
人口:約70000人
職業:リサイクル業
生活環境:川沿いの土地に建てられた簡易的な家屋に住む
これら二つのスラム地区は、貧困によりエリアへ移住した住民が、自身の生計を立てるためにリサイクル業を営む様子が見受けられます。あくまで生活を営むための場所であり、住民たちは厳しい環境の中、日々を生き抜いています。
3.スラム街が形成される理由と現状
(1)経済格差と貧困層の都市部移住
フィリピンでは経済格差が深刻な社会問題となっています。特に、都市部と農村部の所得格差が拡大し、貧困層が都市部への移住を余儀なくされています。以下の表1は、フィリピンの所得分配における都市と農村の格差を示しています。
【表1: フィリピンの所得分配(都市と農村)】
年間所得の中央値(ペソ) | |
都市部 | 150,000 |
農村部 | 80,000 |
都市部への移住は、一見すると生活改善の機会に見えますが、その裏にはスラム街形成の原因が潜んでいます。都市部で住居を確保するための資金や職探しの困難さから、新たな都市移住者はスラム街に居住することが多くなっているのです。
(2)教育の欠如と子どもたちの学校離れ
フィリピンのスラム街においては、一部の子ども達が適切な教育を受ける機会に恵まれていません。その主な理由として、貧困により学費を捻出できない家庭が多いこと、生活費を稼ぐために子どもを労働させざるを得ない現状が存在します。
また、スラム街の教育環境も問題となっています。教材や設備が不足し、また十分な教師もいないため、本来受けるべき教育を受けることが出来ません。これらの問題が、子どもたちの学校離れにつながっています。
【表:スラム街の教育問題の要因】
要因 | 説明 |
貧困 | 学費を捻出できない家庭が多い |
労働要請 | 生活費を稼ぐため子どもを働かせる |
教材不足 | 学習に必要な教材が不足 |
教師不足 | 教育を担当する教師が不足 |
これらの課題に対する解決策を模索することが、スラム街の子どもたちの明日への一歩となります。
(3)不良な治安環境と高い犯罪率
フィリピンのスラム街では、不良な治安環境が深刻な問題となっています。特に、経済的困窮からくる窃盗や薬物事犯が頻発し、住民の生活を脅かす要素となっています。
表1:マニラ市トンド地区の犯罪率(2019年)
種類 | 犯罪発生数 |
窃盗 | 3,000件 |
薬物事犯 | 2,500件 |
殺人 | 500件 |
この表に示されるように、窃盗や薬物事犯が他の犯罪種別に比べて突出しており、これらがスラム街の治安を脅かしていることが明らかです。
また、これらの犯罪が引き起こされる背景には、失業や貧困、教育の機会不足など複雑な社会経済的要因が絡んでいます。これらの状況改善のためには、経済的支援や教育機会の提供だけでなく、地域全体の治安改善が必要となります。
(4)不足した衛生環境と病気の蔓延
フィリピンのスラム街では、基本的な衛生環境が整っていません。多くの地域で、上下水道施設が不十分であり、不衛生な状況が普通です。その結果、病気が蔓延しやすい状況にあります。
特に以下の感染症が問題視されています。
病名 | 症状 | 伝播経路 |
デング熱 | 高熱、筋肉痛、皮疹など | ネッタイシマカの噛みつき |
高感染性肺結核 | 咳、発熱、体重減少など | 飛沫感染 |
ヘルパンギーナ | 発熱、喉の痛み、口内炎など | 飛沫感染、接触感染 |
これらの病気は適切な医療環境と衛生習慣が整っていれば予防可能です。しかし、スラム街の現状では、これらが難しいため、一定の感染者が出続けています。
4.スラム街での生活実態:フィリピン滞在の日本人視点
(1)セブ島で見た経済格差
セブ島はフィリピンの一部でありながら、その経済格差は一目瞭然です。都市部では高層ビルが立ち並び、豊かな人々が洗練された生活を送っています。一方で、スラム街では生活環境が劣悪であり、日々の生活に困窮している人々が多く住んでいます。
例えば、以下の表がその経済格差を如実に示しています。
生活条件 | 都市部 | スラム街 |
住居 | 高層マンション・一戸建て | 簡易住宅・ハダカ屋 |
収入 | 安定した正規雇用 | 日雇い労働・無職 |
教育 | 私立学校等に通学 | 学校を離れる子供も |
セブ島のスラム街では、経済的な困難から教育を受けられず、働く機会も限られてしまうという悪循環が存在しています。これは、単に資源が不足しているだけでなく、システムや社会の構造そのものが問題となっている事を示しています。
(2)Facebookにスラム街の状況を載せる現地の人々
スラム街の生活実態を伝えるツールとして、SNSの利用が増えています。特に、フィリピンではFacebookが広く使われ、現地の人々が自らの日常生活や街の風景を投稿することで、リアルタイムな状況を伝えています。
これは、一見、生活の厳しさを伝えるための表現とも受け取れますが、同時にコミュニティや家族とのつながりを保つ手段ともなっています。インターネット接続さえあれば無料で使えるFacebookは、物理的距離や経済的な障壁を乗り越え、情報伝達手段として有効に利用される一方で、彼らの生活環境の厳しさを具体的に可視化する重要なツールともなっています。
【例】 写真1:ごみ山の上で遊ぶ子どもたち キャプション:「毎日のように遊んでいます。でもこれは普通じゃないですよね?」
このような投稿を見ると、私たちは彼らの現状と向き合うきっかけを持つことができます。
5.スラム街におけるボランティア活動とその注意点
(1)炊き出しや教育のボランティア
フィリピンのスラム街で行われるボランティア活動は、大きく分けて二つに分類されます。一つは食料不足を補う「炊き出し」、もう一つは未来の可能性を開く「教育」です。
まず、炊き出しは直接的な飢餓対策で、ボランティア団体や教会などがスラム地域で食事を提供します。しかし、この活動は一時的な救済であり、根本的な解決には至りません。
一方、教育ボランティアは子どもたちへの学習支援を行い、将来的な生活改善や貧困脱出の道を開くことを目指します。具体的な活動内容は、学校施設の建設、教材の提供、家庭訪問を通した親への教育意識の啓発などがあります。
表1:スラム街で行われる主なボランティア活動
活動内容 | 目指す効果 | 具体的な取り組み |
炊き出し | 飢餓対策 | 食事の提供 |
教育 | 生活改善・貧困脱出 | 学校施設の建設、教材提供、教育意識啓発 |
以上の二つのボランティア活動は、スラム街の問題と直面し、解決に向けたアクションを起こす一助となります。
(2)個人行動の避け方と自己満足のボランティア問題
スラム街でのボランティア活動は、当然のように感じられるかもしれませんが、実際には個人行動によるものは避けるべきです。理由としては、地域社会の生活慣習や文化を理解していないと、予想外の問題やトラブルを引き起こす可能性があるからです。
また、自己満足のボランティアも問題とされます。これは「自分が何かをしてあげたい」という気持ちから始まる活動で、現地の人々が本当に必要としているのは何かを考えることなく行われることがほとんどです。
例えば、不適切な物資の配布や、自分たちがやりがいを感じるための活動が該当します。その結果、現地のニーズを満たさず、逆に地域社会に負担をかけることにもつながります。
したがって、ボランティア活動を行う際には、以下の注意点を念頭に置くことが重要となります。
現地の状況を理解する
ボランティア団体と連携する
自己満足から距離を置く
このように、ボランティア活動も計画と配慮が必要となるのです。
(3)海外ボランティア保険の加入
フィリピンのスラム街でのボランティア活動に参加する際は、安全面を確保するために海外ボランティア保険に加入することが推奨されます。特に、スラム街では予測不能な事故や怪我、病気のリスクが高まるためです。
海外ボランティア保険会社は多数存在し、それぞれの保険商品には異なる特徴と保障内容があります。選ぶ際は、活動内容に合わせて適切な保険を選ぶことが重要です。
例えば、以下のようなポイントを考慮した保険選びをお勧めします。
医療費用の補償額:現地の医療状況を考慮し、適切な金額を確認してください。
救援・支援サービス:怪我や病気で帰国が必要となった際、医療機関からの送迎や帰国サポートが受けられるか確認してください。
注意すべき点として、保険には必ず「免責事項」が存在します。加入前に詳細を確認し、理解した上で契約しましょう。
6.地域開発とNGOの役割:スモーキーマウンテンを事例に
(1)複雑な問題への対策
フィリピンのスラム街の問題は多岐にわたります。貧困と対立する経済格差、不十分な教育環境、治安の悪化、基本的な衛生環境の欠如など、これら全てが絡み合い、解決が困難な状況を作り出しています。
その解決策として考えられるのが、地域開発です。具体的には、インフラ整備、教育環境の改善、公衆衛生の向上など地域の総合的な強化を目指します。これにより、生活環境の改善と共に、治安の安定化も期待できます。
また、自助努力だけでは難しい問題に対しては、国際NGOの支援を積極的に受け入れる事が大切です。これにより、地域開発のスピードを上げることが可能となります。
【表1】複雑な問題とその対策
問題点 | 対策 |
経済格差 | 地域開発、経済活動の振興 |
教育環境の欠如 | 教育施設の整備、教育プログラムの開発 |
治安の悪化 | インフラ整備、公衆衛生の改善 |
衛生環境の不良 | 公衆衛生の改善、清潔な水源の確保 |
各問題への具体的な対策を見てみると、地域全体の開発と国際NGOの活動が重要であることがわかります。
(2)国際NGOプラン・インターナショナルの活動
プラン・インターナショナルは、フィリピンのスラム街であるスモーキーマウンテンで活動を展開しています。その主な活動としては、教育機会の提供、衛生環境の改善、生活基盤の整備などがあります。
具体的には、学校教育へのアクセスが難しい子どもたちに対し、非公式教育プログラムを提供。これにより学びの機会を確保しています。
また、衛生環境の改善については、清潔で安全な水の提供やトイレ設備の改良を手掛け、生活環境を向上させています。
さらに、生活基盤の整備としては、職業訓練を提供し、自立支援を行っています。
活動内容 | 具体的な取り組み |
教育機会の提供 | 非公式教育プログラムの提供 |
衛生環境の改善 | 清潔で安全な水の提供、トイレ設備の改良 |
生活基盤の整備 | 職業訓練の提供 |
プラン・インターナショナルのようなNGOの活動により、スラム街の改善が進みつつある現状を見てみましょう。
7.まとめ
フィリピンのスラム街の現状は厳しく、経済格差や教育の欠如、不良な治安環境、衛生環境の問題などが絡み合っています。しかし、理解と共感を進めることで、現地の人々と共に解決の道を模索することが重要です。
スラム街での生活実態は、一見すると過酷なものですが、その中でも人々は生き抜いています。日本人がそこで見る景色は、自国では見ることのできない現実を示しています。
ボランティア活動やNGOの役割も重要で、彼らが地域開発において大きな役割を果たしていることを忘れてはなりません。ただし、自己満足のボランティア活動を避け、現地のニーズに基づいた援助を心掛けるべきです。
フィリピンのスラム街問題は、その解決に時間と労力が必要ですが、各国と連携し、共に取り組むことで改善に向けた一歩を踏み出すことが可能です。